「―――でも、もし本当にわたしが死にそうになっても、助けてくれなくて、いいですよ」

星空を見上げながら彼女がそうつぶやいた。
あまりに空が広いから、どちらが自分の在り処なのか忘れそうになるほどの星空を見上げながら。
俺は何も答えなかった。

「重みを背負うのが、嫌なんですよね。だから、助けてくれなくても」
「それは違う」

思わず声が、こぼれ出た。

「そうですか」
「もうお前は俺の重みになっている」
「・・・すみません」
「・・・・・・でも、自分一人で自分の重みを支えるより気は楽だ」
「・・・・・・」
「勝手に死なれたら、俺がお前の重みも背負わなきゃならん。旅が終わるまでな」
「・・・それは、辛いです」
「そうだ。だから、お前が死にそうだったら極力助けるようにする。絶対、じゃないぞ」
「わたしは・・・」
「勘違いするな。俺のためだ。その後お前がどうなろうが知ったことじゃない」
「じゃあ、わたしはどうすればいいでしょう」
「お前は・・・」

ふと見るとイリアは、苦しげな、悲しげな顔をしていた。
彼女のこんな顔は初めて見た。見ているこちらまで胸を締め付けられる。
自分に何ができるのかわからず、
何かをしたいのに何もできない自分を無力に思う頃を思い出したような気がした。

「お前は別になにもすることはない」
「それでは、不公平です」
「そのままでいい。笑ってろ」
「・・・・・・はい」

笑った。




いい天気だった。
空には大きな雲がもこもこと生えている。青く青く、濃い色の空。
道端に咲く花は日に焼けて、ピンクがすこし褪せたような白をしていた。
隣には、黄と燈の色。葉の緑が鮮やかだった。
乾いた地面。また一歩、重力から逃れようと足を浮かせ、前へ。
―――じゃり。
着地成功・・・。
どうあがいたって、重力からは逃れられない。せめて逆らうぐらいか。この、歩みという行為は。
また一歩、足を浮かせ、前へ。
―――がしゃん。
未だ足は宙へ。

振り返ると、イリアが転んでいた。
無理もない。この辺りは道がでこぼこしていて歩きにくいし、疲れも溜まっているだろう。
俺は一瞥をくれると、再び歩き始めた。
後ろで慌てて起き上がる音。
タッタッタ・・・
カラカラカラ・・・・

荒い息遣いが近づいてきた。
見ていない背後のことなのに、まるでその仕草がひとつひとつ見えているようでおかしかった。

「転んでしまいました」

照れ隠しのような声。

「怪我はないか」
歩きながら、振り返りもせず、言葉を交わす。

「大丈夫です。気を付けないと、いけませんね」
「そうだな」
「・・・笑ってます」
「誰が」
「あなたが」
「そうだな。おかしかったからな」
「おかしかったですか」
「ああ」
「ふふふっ」
「なんでお前も笑う」
「背中を見ていても、あなたの笑っている顔が見えているみたいで、嬉しかったんです」
「俺もお前の顔は見なくてもわかる」
「すごい」
「いつも笑ってるからな。お前は」
「・・・えへへ・・・それが・・・わたしですから」

声に、かすかな悲しみが混じった。 そういえば、イリアはどうしていつも笑っていられるのだろう。
転んでも、俺に冷たくされても、死にそうに苦しくても、いつでも笑っている。

「・・・なんでいつも笑っていられる?」
「あなたが、そうしろと言いました」
「・・・その前は」
「うーん・・・多分、同じ。同じように笑っていたと思います」
「昨日、お前はずっとひとりだったと言った」
「言いました」
「ひとりで、笑っていられるものなのか」
「・・・」
「誰もいないのは確かに気楽だが、かといって笑えるものでもない。
それどころか一緒に笑いたいような嬉しいことがあっても誰も一緒に笑ってくれない。
ひとりの喜びはただ寂しいだけだ」
「だから、笑うんです」
「何故笑うんだ。苦しければ、寂しければ助けを求めればいいじゃないか」

俺は自分の声の調子が少し上ってきていることに気付いて、動揺した。
出したくもない大声を上げてしまいそうだ。

「駄目、なんです」
「何が駄目なんだ。一人で耐えたって解決しないだろう」
「何故、駄目なのか。それは、きっとあなたも知っています」

・・・・・やくそく・・・ですから

イリアが最後にそうつぶやいて、何度聞いてもこの話題はそれきりだった。



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